GEの陰影に見る変革力
ウェルチ氏からイメルト氏へ変わり、GEが製造業へ回帰した流れを分かりやすく解説した書籍である。1兆9000億円、2015年に金融市場から撤退するためにGEが計上した特別損失は、皆さんの記憶にも新しいと思います。金融市場から撤退し、製造業へと回帰したことは、世間の驚きを持って受け止められました。
シリコンバレー方式への傾倒
一見、単純な原点回帰に見えたGEの行動の裏側では、シリコンバレーのやり方を学んで忠実に実践していたという衝撃的な事実が明らかになっている。
リーンスタートアップやデザイン思考、古くはアジャイル開発などのIT業界であれば、誰でも知っている手法ではあるが、それをGEという巨体で短期間に実践まで移したことに驚きを隠しきれない。
IT業界にいる私たちには、そもそもDNAというか業界文化というべきか、荒波や変革といったものに晒されつづけているが故、このような考え方や取り組みの変化を受け入れやすいマインドがある。
逆に超の付く大手企業では、これらの変革が受け入れられるほどの柔軟なマインド、または変革のスピードに追いつけるような組織や文化にはなっていません。
ディスラプションという危機感が原動力
彼らGEを強く突き動かしたのは、IBMやGoogleなどのIT企業である。彼らが、製造業などの領域にITサービスを提供することでGEの領域を侵される、つまりディスラプションを強く意識したからだと本書では述べている。
製造業としてハードウェアを提供しているにも関わらず、ソフトウェアで全てをひっくり返されてしまう。マーク・アンドリーセンが言った「ソフトウェアが世界を食べる」が、自社の事業領域である製造業にもやってきたと自覚し、その強い危機感がデジタル製造業へと大きく舵を切ったのである。
デジタル製造業へ
デジタル製造業へ変革するため、ソフトウェア開発をアウトソースからインソースに切り替え、ナレッジキャピタルを維持し競争力を高めていること、また販売モデルもサブスクリプションモデルや成果報酬に注力し、成果を売ることにシフトしている。
これらの証左は、この書籍にある事例でも多く語られている。顧客へハードウェアを納品することがゴールではなく、そのハードウェアを稼働させ、ロスを最小限にし、利益を最大化するところにコミットしている点が、GEと他の製造業との大きな違いである。
エコシステムの実現
APPLEのエコシステムのように、Predixというプラットフォームに全てのハードウェアを繋げ、このPredixを活用するためのエッジデバイスまで提供しているという徹底ぶりには、ただただ驚かされるばかりだ。
更にGE製以外の製品も繋いでいこうとしており、これは正にエコシステム以外のナニモノでも無い。
日本企業に与える影響
このように巨大な重電系企業のGEにおいても、スタートアップ企業以上に変革できることを示した良い事例である。
このようなことが、果たして日本の製造業においても実行できるのかは甚だ疑問ではあるが、GEのようなデジタル製造業が押し寄せてきており、待ったなしの状況であることには違いない。
日本企業にもシリコンバレー式の改革が進むことを願うばかりである。
誰が読むべきか
本書を完読した上で、誰に本書を薦めるべきか?と考えたのだが、日本においてはSI’reやWeb制作会社などの経営者に読んで貰いたいと強く思う。日本の製造業などが追い詰められ、GEのように舵を切り始めたとき(全てインハウス化したとき)、殆どのSI’reは大打撃を受けるだろう。
米国の場合、GEや製造業以外の業種もインハウス化は進んでおり、日本だけが特殊な状況にあることは否めない。製造業だけでなく、全ての業種でインハウス化は変えられない流れだとしたら、SI’reやWeb制作会社は何を提供できるのだろうか。
今から考えても遅くはないと願いたい。