マーケティングの実情
スタートアップ、または社内ベンチャーや新規事業にとって、マーケティングは必要なのでしょうか。多くのスタートアップは、ファウンダー自らの技術やアイデアで起業することが多く、マーケティングについては手が回らないのが実情ではないでしょうか。
マーケティングとは経営そのもので、
消費者に自社を愛してもらうことが最終ゴールである
フィリップ・コトラー
マーケティング大家の言葉を敢えて立証するまでもないと思いますが、経営にとって最も重要であるマーケティングが、日本においては規模の大小に関わらず、語られていないことが事業の発展に大きな陰を落としています。
コンシューマー向けビジネスを行っている企業ですら、経営者自らがマーケティングの舵取りを出来ているわけではありませんし、BtoB企業に至ってはマーケティングという言葉すら存在しないに等しい状況です。
デジタルマーケティングというミスリード
デジタルの世界においても、デジタルマーケティングという言葉がミスリードを誘い、我々の中に間違った認識を生み出しています。世の中にある言葉で、マーケティングやデジタルマーケティングほど、誤解されている言葉は他には無いかもしれないくらい、ひどい状況です。
カンファレンスやセミナーなどで語られるデジタルマーケティングという言葉は、多くの場合においてツールの話であり、マーケティングそのものの話では無いのです。
マーケティング人材の不足
スタートアップの経営者においても、マーケティングが最重要課題のはずです。しかし、その最重要課題であるマーケティングに取り組む人材が不足しているのです。
何故でしょうか。
マーケティング人材と言えば、日本においては大手消費財メーカーなどに代表される企業に存在し、主にマスマーケティングを主戦場としています。大手消費財と消費者の関係性で言えば、マスマーケティングに主軸を置きつつ、その他の手法を合わせて用いるのが最も効果の出しやすい方法ですし、多くの場合において間違った方法ではありません。
それでは、この大手消費財メーカーにいるマーケティング担当者が、スタートアップにおいて、これまでのマーケティングノウハウを生かし、グロース(成長)へのキッカケを創ることができるのでしょうか。
実は、ここに大きな落とし穴があるのです。
スタートアップにおけるマーケティング課題
多くのスタートアップ企業にとって、市場(マーケット)が立ち上がっておらず、製品やサービスも知られていない、そもそも会社すら認知度がない状況です。
この状況下で、大手消費財のメーカーにいたマーケティング担当者は、打つべき施策を練り実行することが出来るのでしょうか。
恐らく、かなり難しいのでは無いでしょうか。
その背景としては、前述にあるとおりマスマーケティング主体の活動を行ってきており、その思考が抜けきれないこともありますが、何よりマネジリアル・マーケティング(4Pを中核とする伝統的なマーケティング)を勉強し、実践してきたため、スタートアップのような状況に役に立つ、知識や知恵が身についていないのです。
既に大手企業においてもデジタルシフトされてきていますし、インターネットネイティブな手法を使えるマーケティング担当者も増えてきているとは思います。
ですが、大手消費財メーカーのように強力なブランド力を背景に仕掛けられることや、既にマーケットがある中で打ち手を考えることとは大きく異なるのです。
もちろん、彼らの能力が低いと言っているわけではありません。むしろ、その知識や手法やノウハウ、もっと言えば成功体験が邪魔をするのではないか、ということです。
適切なマーケティング手法を選ぶのは難しい
まだ、市場(マーケット)やブランド、認知度などが全く無い状況においては、どの様な手段があるのでしょうか。昨今、様々なマーケティング手法が研究され、出てきております。
・ダイレクトマーケティング
・One to One マーケティング
・コミュニティマーケティング
・コンテンツマーケティング
・ソーシャルマーケティング
など、上げれば枚挙に暇がなく、どこから手を付けていくべきかも分かりにくい状況です。
市場(マーケット)が出来上がっていないとき、自社の新しい分野の製品が市場に登場しても誰も見向きもしません。このことは、スタートアップのみならず、大手企業の新規事業開発においても同じ事が言えるのです。
どのような企業であれ、0から1を作り出すことは、かなり難しいことです。この最初のひと押しをどこから手を付けて進めて行くべきなのか、この意思決定がスタートアップの経営者にとって最初に訪れる最も重要な意思決定なのです。
製品やサービス、またはターゲットとしている市場の特性などにも影響されますし、どのやり方が正解なのかは、初めてみないと判断することはできません。しかし、最小限のサイズ(コスト)で始めてみて、トライアンドエラーで素早く検証していくことが、結果として最も成功率を高めていくことができる唯一の方法です。
テクノロジー製品の広げ方の事例
クレジットカード決済システムで、旋風を巻き起こしているStripeのFounderであるパトリック兄弟が、ソフトウェアが完成したときに実行したことは、クレジットカード決済を導入したいと思っている企業に彼らのソフトウェアを導入して回ったということです。
結果として、彼らのソフトウェアを導入した企業が、他の企業へ紹介し、多くの企業に知れ渡る流れや種火を創っていったのです。これは、One to One マーケティングとは少し違いますが、顧客の信頼を自分たちの労力(つまりサービス)で補い、一つ一つ顧客を拾っていった結果です。
このようにスタートアップ企業の製品やサービスによって、手法や始め方が異なりますが、Stripeのように売りにくいエンジニア向けのサービスであっても、身の回りにいる人たちから種火を創っていき、グロース(成長)させることも出来るのです。
自社の製品やサービスを利用する顧客のところに行って、使ってもらい、その反応をみて改善していくというプロセスを高速で回していくことが、まだ市場性すらわからないスタートアップの取る道です。
そこで得られた顧客からのフィードバックを製品やサービスに反映し、時には製品やサービスそのものをPivot(方向転換)することも厭わない覚悟が必要です。
やり方は一つではありませんので、貴社の身の丈にあった、かつ実効性のある手法を素早く実行し、経験値を高めることが成功への近道ではないでしょうか。